<目次>
①はじめに
宅建の勉強を始めて、最初に苦労するのが『権利関係(民法)』の専門用語です。漢字ばかりの難しい言葉を前にして、『これをすべて丸暗記しなければならないのか』と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。断言しますが、用語を丸暗記しても、宅建試験の点数は伸びません。合格するために必要なのは、言葉の意味を覚えることではなく、その用語の『本質』を正しく理解することです。それがわかれば、初見の問題でも論点が見抜けるようになります。
この記事では、初学者がつまずきやすい重要用語を実戦で使えるレベルまで噛み砕いて解説します。また、後半には最新の令和7年(2025年)度を含む過去問解説も用意しました。この記事を通して、丸暗記に頼らない「正しい得点力」を身につけていきましょう。
➁専門用語解説
無効・取消し
無効(むこう):「最初から、何の手続きもしなくても、当然に効力がない」状態
取消し(とりけし):「一旦は有効だが、取り消し権者が『取り消す』と言えば、最初に戻って無効になる」状態
どのような内容が無効なのか、取消しなのか覚える必要があります。例えば公序良俗違反や虚偽表示であれば無効ですし、詐欺や強迫であれば取消しです。さらに解説すると、なぜ無効なのか、なぜ取消しなのかはその内容を考えればわかります。例えば、公序良俗違反であれば当事者が納得したとしても社会的、常識的にその契約内容を認めるわけにはいかないので無効です。詐欺や強迫が取消しなのは、たとえ詐欺や強迫をされて契約を結んでしまったとしてもその契約内容が本人にとって良い条件の契約の可能性もあるので、取り消しするかどうかの判断は本人に任せるためです。
善意・悪意・背信的悪意者
善意(ぜんい):ある事情について「知っている」
悪意(あくい):ある事情について「知らない」
背信的悪意者(はいしんてきあくいしゃ):ある事情について「知っていて、さらに他人を害する意図がある」
法律用語の善意、悪意は一般的な言葉である「良い」「悪い」という意味はありません。注意してください。背信的悪意者が一般的な意味での悪意を持った人です。
善意=必ず保護される、悪意=必ず保護されない
というわけではありません。ケースバイケースです。例えば取消前の第三者で、原因が強迫であれば第三者は善意でも保護されませんし、解除後の第三者は悪意であっても保護されます。背信的悪意者は必ず保護されないと考えて大丈夫です。
善意無過失・善意有過失・善意無重過失
善意無過失(ぜんいむかしつ):ある事実について知らないし、注意しても気づけなかった(落ち度ゼロ)
善意有過失(ぜんいゆうかしつ):ある事実について知らなかったけどちょっと注意すれば気づけたはず
善意無重過失(ぜんいむじゅうかしつ):ある事実について知らなかったけど、知らなかったことに重大な落ち度がなかった
善意については過失の有無でさらに細かくわけられますのでそれぞれの意味をしっかり理解してどのような場合に保護されるのか覚えてください。例えば、取消前の第三者(詐欺)では第三者が保護されるためには善意“無過失”である必要がありますが、虚偽表示の第三者では善意であれば良く、無過失までは求められていません。
善意無重過失は「重過失がなければちょっとのミスまではOK」と覚えてください。宅建試験では債権譲渡の問題にのみ登場します。
みなす・推定する
みなす:反論を一切許さない決定事項。「AはBとみなす」と書かれたら、たとえ事実が違っても法律上はAとして扱われます。
推定する: 「とりあえずそう決めるけど、証拠があれば覆していいよ」という保留状態。
宅建試験ではみなす・推定するという言葉が出てきます。厳密に言うと上記のような違いがあり、全く同じ意味ではありませんが、違いをしっかり理解していないと解けない問題は出題されませんので「そういう違いがあるんだ」程度で留めておいてOKです。
行為能力・意思能力・権利能力
行為能力(こういのうりょく):一人で完全に有効な法律行為(契約など)をすることができる能力のこと。
意思能力(いしのうりょく):自分のした行為の結果(法的な意味)を判断できるだけの精神的能力のこと。
権利能力(けんりのうりょく):私法上の権利や義務の主体となることができる資格のこと。
行為能力については、未成年や成年被後見人、被保佐人、被補助人は一部制限がされています。これらを総称して制限行為能力者と言います。有効に法律行為をするためには原則法定代人の同意が必要となります。
意思能力については、一般的に、7歳〜10歳程度の児童の知能が基準とされますが、成人の場合でも、泥酔状態などの場合は、一時的に意思能力がないと判断され、意思能力がない状態でした法律行為は無効になります。
権利能力については、全ての人間、法人が持っています。不動産を所有することができるか、という観点で考えるとわかりやすいです。犬や猫は不動産を所有できませんし、人間はもちろん法人も不動産を所有できます。胎児に権利能力が認められるかという問題は原則認められませんが、一部例外的に認められているものもあります。宅建試験では「捨て問」レベルの問題なので解説は省略します。
問題を解くにあたってどの能力の話をしているか考える必要があります。契約をする話であれば行為能力の話ですし、泥酔状態であれば意思能力の話ですし、乳児が不動産を所有できるかという問題であれば権利能力の話です。
責任能力とか、権利能力無き社団とか、全部露出説と一部露出説とか、今は無き成年擬制とか、法人には総有と合有と共有があるとか、間違っても勉強してはいけませんよ。宅建試験に合格するためには不要な知識です。
取得時効・消滅時効
取得時効(しゅとくじこう):他人の物を一定期間占有し続けることで、その権利(所有権など)を手に入れることができるというもの。
消滅時効(しょうめつじこう):権利を行使しないまま一定期間が経過することで、その権利が消滅するというもの。
権利関係を勉強し始めた時、こんな法律があるのは不思議に感じませんでしょうか。取得時効であれば他人に勝手に自分の土地を取られるわけですし、消滅時効であれば他人にお金を貸したのに返せと言えなくなるということです。なぜこういう法律があるかというと「権利を行使しなかった方が悪い」という考え方があるからです。自分の土地を一定期間使わなかった方が悪い、お金を貸したのに請求しなかった方が悪い、という考え方です。逆に行使していれば時効は完成することはありません。具体的には自分の土地に他人が占有していても「出て行け」と一言言えば、取得時効の要件である平穏が満たされなくなるため、取得時効は完成しませんし、お金を返せと言ったり裁判を起こして勝てば時効の完成猶予や更新に当てはまるため消滅時効は完成しません。
無権代理・表見代理
無権代理(むけんだいり):代理権がないにもかかわらず、勝手に代理人と称して契約を行うこと
表見代理(ひょうけんだいり):無権代理の一種ですが、本人にも一定の落ち度があるため例外的に本人が責任を取る場合のこと
無権代理と表見代理の違いは誰が責任を取るかです。無権代理の場合は本人は全く悪くないので無権代理人が責任を取ります。表見代理の場合は本人に落ち度があるので本人が責任を取ります。本人に落ち度がある場合とは具体的にどのような場合があるのか、民法では以下の3種類が規定されています(複合型もあります)。
1.代理権授与の表示による表見代理(民法109条)
実際には代理権を与えていないが、第三者に対して代理権を与えた旨を表示したケース。
2.権限外の行為の表見代理(民法110条)
与えられた代理権の範囲を超えて契約したが、相手方がその代理人に権限があると信じる正当な理由があるケース
3.代理権消滅後の表見代理(民法112条)
代理権が消滅した後に、元代理人が過去の代理権を濫用して契約したケース。
無権代理でも表見代理でも相手方が責任を追及することができるのは善意無過失である場合のみです。代理権がないことを知りながら取引した場合は相手方を保護する必要がないからです。
到達主義・発信主義
到達主義(とうたつしゅぎ):メッセージを「ポストに入れた(発送した)時」に効果が出るルール。
発信主義(はっしんしゅぎ):メッセージが「相手の手元に届いた時」に効果が出るというルール。
民法では到達主義が原則ですが、宅建試験では場面によりどちらを採用しているか覚えておく必要があります。例えば宅建業法のクーリング・オフでは民法の発信主義が採用されています。
諾成契約・要物契約
諾成契約(だくせいけいやく):当事者の合意のみで成立する契約
要物契約(ようぶつけいやく):当事者の合意のみで成立せず、物の引き渡しがあって初めて成立する契約
なにが諾成契約でなにが要物契約かは民法に規定されています。近年の法改正でほとんどの契約が諾成契約になりました。宅建試験に出る範囲で要物契約なのは不動産質権くらいですが、ほとんど出ませんので基本諾成契約と覚えて問題ありません。
③近年の重要過去問の解説
令和7年(2025年)問3
イ 相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効であり、第三者がその虚偽表示につき善意であっても、過失があれば、当該第三者にその無効を対抗することができる。
→誤り。虚偽表示の無効は、『善意の第三者』に対抗できません。ここでの第三者の要件は『善意』だけで足り、過失の有無(無過失か有過失か)は問われません。 したがって、過失があっても善意であれば、その第三者に無効を対抗することはできません。
令和6年(2024年)問1
1 営業を許された未成年者が、その営業に関する意思表示をした時に意思能力を有しなかった場合は、その法律行為は無効である。
→正しい。意思能力の話であり、意思無能力者がした法律行為は無効です。この問題では行為能力の話は関係ありませんから注意してください。「未成年者は行為能力は制限されているけど営業を許されているから営業の範囲内では法律行為ができるな、でも営業の範囲外では法律行為はできないな」など一切考える必要はありません。論点が違うからです。
2 公の秩序に反する法律行為であっても、当事者が納得して合意した場合には、その法律行為は有効である。
→誤り。公序良俗は『社会のルール』です。いくら当事者が『俺たちは納得してるから、この公序良俗に反する契約は有効だ!』と言い張っても、社会が許さないので無効になります。個人の合意より社会の常識が優先される、と覚えましょう。」
令和6年(2024年)問8
1 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
→誤り。到達主義か発信主義かどっちなのか聞かれています。民法の原則は到達主義であり、通知を発した時、発信主義ではありませんので誤りです。
④まとめ
専門用語は、単語テストのように丸暗記するものではありません。本当に大切なのは、『その言葉が、実際の問題でどう使われるのか』を正しく理解することです。今回解説した過去問のように、言葉の『本質』さえつかんでしまえば、難しい問題文に惑わされることはなくなります。丸暗記に頼らずに『本質』を味方につけることこそが、権利関係を攻略する一番の近道です。
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