➀はじめに

宅建試験の合格に向けて学習を進める中で、避けて通れないのが『宅建業法』です。
「権利関係」や「法令上の制限」が法理論や街づくりのルールを学ぶものであるのに対し、宅建業法は私たちが「不動産のプロ」として現場に立つ際に守るべき、実務に直結したルールブックです。

この科目は試験50問中20問を占める最大の得点源です。合格ライン突破に不可欠な『20問中18問以上』を確実に狙うには、単なる丸暗記ではなく、なぜこれほど細かなルールが存在するのかという「プロに課された重い責任」の本質を理解することが必要です。

圧倒的な情報量を持つ「業者」が、その力を背景に不当な取引を行わないよう、法律によって厳格な行動制限が設けられています。この「ルールの目的」さえ掴めれば、バラバラに見えた知識が一本の線で繋がり、自然と得点力が身につきます。

この記事では、初学者が混乱しやすい「事務所の定義」や「保証金の仕組み」、そして実務の要となる「3大書面(34条・35条・37条)」など、得点に直結する重要用語を、プロが負うべき義務という視点から「本質」を解説します。

また、後半には最新の令和7年度(2025年)の重要過去問解説も用意しました。この記事を通して暗記の苦しみから抜け出し、確実に「合格点」をもぎ取るための基礎を固めていきましょう。

➁専門用語解説

事務所・案内所

  • 事務所(テナント・自社ビル): ずっとそこに構えて商売をする「宅建業の拠点」。本店・支店がこれにあたる。
  • 案内所(テント張り・モデルルーム):特定の物件を売るための「一時的な窓口」。

なぜこの2つを明確に分ける必要があるのか。それは、「どこまで本格的な場所か」によって、国が業者に課すルール(義務)の重さが変わるからです。
ビルの一室などのテナントに構える「事務所」は、本拠地である以上、最も重い責任が伴います。工事現場の横にあるテント張りのような「案内所」は、あくまで期間限定の場所で、どれほど豪華なモデルルームでも法律上の扱いは「事務所」ではありません。そのため、案内所をどれだけ作っても、追加でお金(保証金)を積む必要はないのです。
ただし、一点だけ注意があります。案内所でも「契約や申し込み」を行う場合は、大切なお金や印鑑を扱うため、最低1人、宅建士を置かなければなりません(事務所は5人に1人)。
「お金(保証金)が必要なのは事務所(テナント)だけ」「宅建士が必要なのは事務所と、契約をする案内所」。この区別が、試験での得点力を分けるポイントになります。

変更の届出・変更の登録

  • 変更の届出: 「宅建業者(会社)」が、免許権者(国土交通大臣や都道府県知事)へ行う報告。
  • 変更の登録: 「宅建士(個人)」が、登録を受けている都道府県知事へ行う報告。

変更の届出は以下の内容に変更があったら30日以内に届け出なければなりません。
・商号(社名)
・事務所の名称・所在地
・役員の氏名・政令で定める使用人の氏名(※非常勤役員なども含む)
・事務所ごとに置かれる専任の宅建士の氏名

変更の登録は以下の内容に変更があったら遅滞なく申請しなければなりません。
・氏名
・住所
・本籍
・勤務先の業者の名称・免許証番号

試験で最も狙われるのは「届出・登録が『不要』なケース」です。
業者の届出: 役員や専任の宅建士の「住所」が変わっても、会社の看板には関係ないので届出不要。
宅建士の登録: 勤務先の業者の「所在地(住所)」が変わっても、勤め先の名前が変わらなければ登録不要。

登録の移転

登録の移転: 他の都道府県にある事務所の業務に従事する(またはしようとする)際、登録先を「A県知事」から「B県知事」へ移すことができる制度。

最大の特徴は、あくまで「本人の意思ですることができる(任意)」という点です。
「氏名や住所の変更(変更の登録)」は必ず行わなければならない義務ですが、登録の移転は義務ではありません。手続きをしなくても、現在の登録先の知事が交付した宅建士証を使って、全国どこでも宅建士として業務を行うことができます。
試験で最も狙われるのは、「申請ができる条件」です。登録の移転は、あくまで「仕事(現在の登録先以外の都道府県にある勤務先の事務所の所在地)」が理由である場合にのみ申請することができます。「住所の引っ越し」だけでは登録の移転は申請できない、という点をしっかり押さえておきましょう。また、事務禁止処分を受けている期間中は、移転の申請をすることはできません。

営業保証金・弁済業務保証金

  • 営業保証金: 宅建業者一社で数千万円を法務局に預ける
  • 弁済業務保証金: 保証協会(チーム)に加入し、宅建業者が分担金を払う(金額は営業保証金よりも安い)

不動産取引は動く金額が大きいため、もし業者のミスで取引がダメになった場合、一般のお客さんは人生が変わるほどの損害を受けてしまいます。そこで、宅建業者が倒産したり逃げたりしても被害を補償できるよう、あらかじめ「人質」としてお金を預けさせておくのがこの制度です。つまり、「預けておいたお金(人質)から、優先的に被害を弁済してもらえる仕組み」というのが営業保証金と弁済業務保証金です。宅建業を営むためには必ずどちらかの制度を利用しなければなりません。
金額については、営業保証金は本店1000万円、支店1つにつき500万円です。弁済業務保証金(分担金)は本店60万円、支店1つにつき30万円です。金額が安い分、保証協会(弁済業務保証金)に加入すると、営業保証金にはないデメリットがあります。それが、「特別弁済業務保証金分担金」の徴収です。
もし協会に加入している他の宅建業者が莫大な損害を出し、協会の財布がピンチになった場合、他のメンバー(宅建業者)でその穴埋めをしなければなりません。自分は何も悪いことをしていなくても、通知から1ヶ月以内にこのお金を払う必要があります。もし払えなければ、即座に保証協会の社員(メンバー)ではなくなり、数千万円単位の営業保証金を供託し直さない限り営業できなくなるという、非常に厳しいペナルティが待っています。

還付

還付(かんぷ): 業者が預けておいた「人質(お金)」が、被害を受けたお客さんに支払われること。

業者が不祥事を起こしてお客さんに損害を与えた際、預けてある営業保証金(または弁済業務保証金)から被害額が払い戻されます。還付制度は、不動産業者がお客さんに損害を与えた場合に、お客さんが被った損害を補填するための仕組みです。供託所からお客さんへ払い戻しが行われることで実現されます。

試験では、還付された「その後」のルールが頻出です。お金が支払われると、供託所に預けてある「人質」が減ってしまいます。そのため、業者は減った分を補充(穴埋め)しなければなりません。
営業保証金の場合:通知を受けてから2週間以内に、不足額を供託しなければなりません。
弁済業務保証金の場合:通知を受けてから1週間以内に、不足分(還付充当金)を協会に納めなければなりません。
営業保証金でも、弁済業務保証金でも「通知を受けてから」です。なぜなら、業者は自分でお金を払うわけではないので、免許権者や保証協会から通知を受けて初めて、還付が行われた事実を知ることになるからです。ここは試験に出やすいのでしっかり理解しましょう。

また、還付を受けられるのは「一般のお客さん」だけです。「宅建業者(プロ)」は還付を受けることができないという問題には注意しましょう。

媒介・代理

媒介: 宅建業者はあくまで条件の調整役。契約を結ぶ判断は本人が行う。宅建業者はその『橋渡し』の対価として報酬(仲介手数料)を受け取る。
代理: 宅建業者は本人から判断を任された代理人。宅建業者の判断で契約を成立させることができる。

この2つは「宅建業者にどこまでの役割を期待するか」によって使い分けられます。
媒介(仲介)
実務のほとんどがこれにあたります。宅建業者は「買いたい人(借りたい人)」と「売りたい人(貸したい人)」を引き合わせ、重要事項説明などを行って契約をサポートします。しかし、最終的に契約書に署名・捺印し、売買を決定するのは本人同士です。
代理
本人が遠方にいる場合などに、契約の締結権限を業者に与えるケースです。この場合、宅建業者が本人の名前でサインをすれば、それだけで本人に対して契約の効果が発生します。責任が重いため、もらえる報酬の上限額も媒介の2倍まで認められています。

一般媒介・専任媒介・専属専任媒介

  • 一般媒介: 何社に頼んでもOK。自分で見つけた相手と契約するのも自由。
  • 専任媒介: 頼めるのは1社だけ。ただし、自分で見つけた相手と契約するのはOK。
  • 専属専任媒介: 頼めるのは1社だけ。たとえ自分でお客さんを見つけてきても、直接契約はできず、必ずその業者を通さなければならない(自己発見取引の禁止)。

この3つの違いは、宅建業者と依頼者の「信頼関係」で決まります。
一般媒介
依頼者が何社にも声をかけられるため、業者は「せっかく動いても他社に横取りされるかも…」と、やる気(広告費などの経費)を出しにくい側面があります。そのため、宅建業者には指定流通機構への登録や業務状況の報告義務が課せられていません。
専任・専属専任媒介
「あなただけに任せます」という強い信頼関係がベースです。他社に横取りされる心配がないため、宅建業者は「絶対に売るぞ!」と本腰を入れて活動できます。その代わり、プロがサボってお客さんが不利益を被らないよう、法律で厳しい義務がセットになっています。

指定流通機構

  • 指定流通機構(レインズ):国土交通大臣の指定を受けた、宅建業者同士が物件情報を共有するためのインターネットサイト。

宅建業者が売主から売却依頼を受けた際、自社だけで買い手を探すと時間がかかり、売主が不利益を被る可能性があります。そこで、情報を広く公開して早期成約を目指すためにこの仕組みが活用されます。レインズは宅建業者専用のサイトのため、一般の方は閲覧できません。
宅建業者との信頼関係で成り立っている専任・専属専任契約では、早期売却をサポートするために法律で登録が義務化されています。
専任媒介: 契約締結から7日以内
専属専任媒介: 契約締結から5日以内
(※いずれも「業者の休業日」はカウントに含みません。一般媒介は任意です。)

試験では、登録後の「登録用交付書面」の扱いが狙われます。業者は登録を完了したら、システムから発行される証明書(登録用交付書面)を遅滞なく依頼者に渡さなければなりません。「ちゃんと全国の業者に公開しましたよ」という証拠を本人に見せることで、業者が情報を囲い込んでサボるのを防いでいるのです。この「情報の透明性を高める」という目的を理解しておきましょう。

34条書面・35条書面・37条書面

  • 34条書面(媒介契約書): 業者に依頼する際の契約内容を定めた書類。
  • 35条書面(重要事項説明書): 契約前に物件の説明をする書類。
  • 37条書面(契約書): 契約成立後に「最終的な合意内容」を記した書類。

これらは不動産取引の「入口から出口まで」を支える重要な書類であり、それぞれ交付すべき相手や場面が厳格に決まっています。

34条書面(依頼の証明)
売主や買主が「あなたの会社に任せます」と業者に依頼した際、後で仲介手数料の金額等でもめないよう、媒介契約の締結後、遅滞なく依頼者に交付します。業者と依頼者の間の「契約内容」を明確にするものです。34条書面には宅建士でないとできない業務はありません。

35条書面(購入前のリスク説明)
買主や借主が「この物件を買って(借りて)後悔しないか」を判断できるよう、契約が成立する前に、必ず宅建士が宅建士証を提示して説明を行います。物件の詳細や法的な規制など、判断材料となる情報をすべて開示することが義務付けられています。

37条書面(最終合意の証拠)
売買の合意に達し、契約が成立した際に、その内容に間違いがないよう遅滞なく売主・買主(貸主・借主)の双方に交付します。代金の額や支払日、引渡し日といった「当事者同士の約束事」を確定させ、言った言わないのトラブルを防止します。35条書面とは違い、宅建士の説明義務はありません。ただし、35条・37条ともに宅建士の記名は必須です。

③近年の重要過去問の解説

令和7年(2025年)問29

1 Aが媒介により事業用宅地の賃貸借契約を成立させた場合、37条書面を交付しなければならないが、契約の当事者Bが宅地建物取引業者であるときは、交付する必要はない。
→誤り。宅建業法において「37条書面(契約書)」は、取引の最終結果を記録する極めて重要な書類です。そのため、相手がプロ(宅建業者)であっても、交付を省略することは一切認められません。

令和7年(2025年)問33

エ 建物の賃貸借の媒介をするAは、37条書面を交付するに当たり、宅地建物取引士をして、その内容を説明させなければならない。
→誤り。35条書面(重要事項説明)には「説明」が必要ですが、37条書面(契約書)には「説明」の義務はありません。

令和7年(2025年)問39

宅地建物取引業者Aが、BからB所有の中古住宅の売却について媒介の依頼を受けた場合における次の記述のうち、宅地建物取引業法(以下この問において「法」という。)の規定によれば、正しいものはどれか。

1.AがBとの間で専属専任媒介契約を締結し、Bから「売り出し中であることを秘密にしておきたいので指定流通機構への登録はしないでほしい」旨の申出があった場合、Aは、そのことを理由に登録をしなかったとしても法に違反しない。
→誤り。専属専任媒介契約において、指定流通機構への登録は法律上の強制義務です。たとえ依頼者の希望であっても、登録を省略することはできません。

3.AがBと一般媒介契約を締結したときは、法第34条の2第1項の規定に基づき交付すべき書面に、宅地建物取引士をして記名させなければならない。
→誤り。媒介契約書(34条の2書面)に必要なのは、「宅地建物取引業者」の記名です。35条書面や37条書面とは異なり、「宅地建物取引士」に記名させる義務はありません。

令和7年(2025年)問42

宅地建物取引士に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定によれば、正しいものはいくつあるか。なお、この問において、宅地建物取引士は、事務の禁止の処分を受けていないものとする。

エ 宅地建物取引士は、登録を受けている都道府県知事の管轄する都道府県以外の都道府県に所在する宅地建物取引業者の事務所の業務に従事しているときは、登録の移転の申請をすることができる。
→正しい。「住所を変えた(単なる転居)」だけでは登録の移転はできませんが、「勤務先の事務所が他県にある」、あるいは「他県の事務所へ異動・就職する」といった仕事上の理由があれば、申請をすることができます。

④まとめ

宅建業法を攻略する最大のコツは、一つひとつのルールを「バラバラな暗記項目」として捉えないことです。

「なぜ、プロに対してこれほど厳格な義務が課されているのか?」

その背景にある理由を理解すれば、一見複雑に見える用語や数字も、必然性を持った知識として定着していきます。
この科目は試験50問中20問を占める最大の得点源であり、ここで満点近くを確実に積み上げることが合格への絶対条件です。丸暗記の苦行にするのではなく、ルールの意図を正しくイメージすることで、細かな知識を問う問題に動じない本物の得点力を養っていきましょう。

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