<目次>
①はじめに
物権変動は宅建受験者で苦手にする人が多く、生徒様から「一覧図を作ってほしい」、「解除、取消し、時効完成の問題を解説してほしい」との意見を数多く頂きましたので今回解説していきます。
②対抗問題の基本(二重譲渡)
A(売主)がB(第1買主)にA所有の甲不動産を売却した。その後、AはC(第2買主)にも同じく甲不動産を売却した。甲不動産はBとCどちらに所有権があるか。
物権変動の大原則、二重譲渡の問題です。この場合、契約日ではなく登記(所有権移転登記)の有無によって決します。したがってBとCは先に登記をした方が所有権を主張することができます。
根拠条文 民法第177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
③取消し・解除・時効と第三者(一覧図)
場面 | ~前の第三者との関係 | ~後の第三者との関係 |
取消し (詐欺) | ①善意無過失の第三者 に対抗できない (登記関係なし) | ⑤登記した者が勝ち (二重譲渡と同じ考え方) |
取消し (強迫) | ➁第三者に対抗できる (登記関係なし) | |
解除 | ③登記を備えた第三者 には対抗できない | |
時効 | ④第三者に対抗できない (登記関係なし) |
多くの受験生が物権変動の問題を苦手にしていますが、見やすいように一覧図にまとめてみました。必ずそれぞれ理由がありますので、理由と結論をセットで覚えてください。丸暗記は頭に入りません。以下それぞれについて解説していきます。
①取消し前の第三者(詐欺)
A(売主)がB(買主)から詐欺を受けて、A所有の甲不動産をBに売却した。Bは甲不動産をC(第三者)に売却した。その後AはAB間の売買契約を詐欺を理由に取消した。AはCに対して甲不動産の所有権を主張できるか。
物権変動というよりも意思表示の問題です。AがAB間の売買契約を取消す前に、Aから見て第三者であるCが登場しているので、取消し前の第三者の問題と言います。取消しの原因が詐欺の場合、Cが善意無過失であれば、AよりCを保護すべきなので、AはCに対抗できません(所有権を主張できない)が、Cが善意無過失以外(善意有過失または悪意)であれば、Cを保護する理由はないのでAはCに対抗することができます(所有権を主張することができる)。ここでは登記は関係ありません。なぜなら条文に登記が必要と書いてないからです。
根拠条文 民法第96条
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
②取消し前の第三者(強迫)
A(売主)がB(買主)から強迫されて、A所有の甲不動産をBに売却した。Bは甲不動産をC(第三者)に売却した。その後AはAB間の売買契約を強迫を理由に取消した。AはCに対して甲不動産の所有権を主張できるか。
これも物権変動というよりも意思表示の問題です。AがAB間の売買契約を取消す前に、Aから見て第三者であるCが登場しているので、取消し前の第三者の問題と言います。取消しの原因が強迫の場合、強迫されたAは手厚く保護されるので、Cが善意無過失であっても対抗することができます(所有権を主張することができる)。ここでも登記は関係ありません。
根拠条文 民法第96条第一項
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
③解除前の第三者
A(売主)はB(買主)にA所有の甲不動産を売却し、登記を移転した。Bは甲不動産をC(第三者)に売却した。その後、AはAB間の売買契約を債務不履行を理由に解除した。AはCに対して甲不動産の所有権を主張できるか。
AがAB間の売買契約を解除する前に、Aから見て第三者であるCが登場しているので、解除前の第三者の問題と言います。この場合、民法の規定及び判例は『原状回復をするにあたって、契約の当事者は第三者の権利を害することはできない、第三者は善意である必要はないが、第三者の権利が保護されるためには第三者は登記を備えている必要がある』としています。カギカッコ内は必ず覚えてください。必ず覚えてください。覚えないと問題が解けないからです。
今回のケースに当てはめると、Cが登記を備えていればAはCに対抗することができない(所有権を主張することができない)ですが、Cが登記を備えていなければAはCに対抗することができます(所有権を主張することができる)。
Cが善意である必要はないのはなぜかというと、詐欺であれば詐欺という悪いことを知っていた人を保護する必要はありませんが、債務不履行、まだお金を支払っていない場合、これを第三者CがBC間の売買契約時に知ったとしても「遅れても払えば良いだけ」とCは思うだけで、悪いことを知っていて取引したわけではないので、Cは解除原因について悪意であっても保護されます。したがって解除前の第三者の問題の場合、第三者の善意悪意は関係ありません。
今回のケースでは所有権ですが、権利は所有権に限らず保護されます。例えばBC間の契約が抵当権設定契約であってもCは登記されていたら保護されます。
根拠条文 民法第545条第一項
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
④時効完成前の第三者
B(旧所有者)の乙土地をA(占有者)が占有した。Aが占有を継続している間、BはC(新所有者)に乙土地を売却し、登記も移転した。その後、Aの取得時効が完成した。AはCに対して所有権を主張できるか。
Aの時効が完成する前に、Aから見て第三者であるCが登場しているので、時効完成前の第三者の問題と言います。この場合、Aは「C所有の乙土地を時効により取得した」と登記がなくてもCに対して主張することができます(判例)。
この場合、もしCが乙土地を購入した次の日にAの時効が完成したら、Cはたった一日で自分が買った土地を他人であるAに取られることになり、一見Cが可哀想に思えるが法律上Aのものになるのはなぜか。乙土地を購入する時に乙土地を確認しなかったCが悪いというのが法律上の考えで、もし確認してAに「出てけ」と言えば時効は完成しないので(取得時効の要件の1つである平穏を満たさなくなる)問題なくCのものになったはずだからです。
参考条文 民法第162条
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
⑤取消し後の第三者、解除後の第三者、時効完成後の第三者
取消し後の第三者(詐欺)
A(売主)がB(買主)から詐欺を受けて、A所有の甲不動産をBに売却し、登記も移転した。AはAB間の売買契約を詐欺を理由に取消した。その後、Bは登記が自分にある事を利用し、甲不動産をC(第三者)に売却した。AはCに対して甲不動産の所有権を主張できるか。
取消し後の第三者(強迫)
A(売主)がB(買主)から強迫されて、A所有の甲不動産をBに売却し、登記も移転した。AはAB間の売買契約を強迫を理由に取消した。その後、Bは登記が自分にある事を利用し、甲不動産をC(第三者)に売却した。AはCに対して甲不動産の所有権を主張できるか。
解除後の第三者
A(売主)はB(買主)にA所有の甲不動産を売却し、登記を移転した。AはAB間の売買契約を債務不履行を理由に解除した。その後、Bは登記が自分にある事を利用し、甲不動産をC(第三者)に売却した。AはCに対して甲不動産の所有権を主張できるか。
時効完成後の第三者
A(旧所有者)の乙土地をA(占有者)が占有した。Aの取得時効が完成した後、BはC(新所有者)に乙土地を売却し、登記も移転した。AはCに対して所有権を主張できるか。
全てにおいて考え方は共通していて、二重譲渡と同じように考えます。つまり、登記を備えた方が所有権を主張することができます。なぜ二重譲渡と同じように考えるかというと、二重譲渡の問題における第1買主と第2買主の立場が平等なのと同様に、A(売主)とC(第三者)の立場が平等だからです。
AはBに対して、「取消し(解除、時効が完成)したから登記を戻せ(移せ)」と言うことができます。
CもBに対して「買ったから登記を移せ」と言うことができます。
AもCも両方とも法律上の根拠に基づいて登記を移せと主張することができ、立場が平等なので二重譲渡と同じように考えて、登記した者が所有権を主張することができます。
④近年の過去問の解説
上記の解説はわかりやすさを重視しているため可能な限り簡潔に具体例を書きましたが、実際の問題は簡潔に書かれておらず、物権変動の中のどの問題の話をしているか読み取る必要があり、多少の国語力が必要になってきます。文を読み取る時は時系列に着目して読んでいきましょう。そうすれば物権変動のどの場面かわかるはずです。
令和5年(2023年)問6
A所有の甲土地について、Bが所有の意思をもって平穏にかつ公然と時効取得に必要な期間占有を継続した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはいくつあるか。
ア.AがCに対して甲土地を売却し、Cが所有権移転登記を備えた後にBの取得時効が完成した場合には、Bは登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をCに対抗することができる。
→正しい
Bの時効が完成する前にBから見て第三者Cが登場しているので、時効完成前の第三者の問題とわかります。時効完成前の第三者の問題の場合、時効が完成した者(この問題ではB)は登記を備えなくても第三者(この問題ではC)に対し対抗できる(所有権を主張することができる)ので正しいです。
イ.Bの取得時効が完成した後に、AがDに対して甲土地を売却しDが所有権移転登記を備え、Bが、Dの登記の日から所有の意思をもって平穏にかつ公然と時効取得に必要な期間占有を継続した場合、所有権移転登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をDに対抗することができる。
→正しい
前半と後半に分けて考える必要があります。
「Bの取得時効が完成した後に、AがDに対して甲土地を売却しDが所有権移転登記を備え、」
この前半の部分では、Bの時効が完成した後にBから見て第三者であるCが登場しているので、時効完成後の第三者の問題とわかります。時効完成後の第三者の問題の場合、二重譲渡と同じように考えて、登記を備えた者が所有権を主張することができます。この問題ではDが登記を備えたのでこの地点での甲土地の所有者はDです。
「Bが、Dの登記の日から所有の意思をもって平穏にかつ公然と時効取得に必要な期間占有を継続した場合、所有権移転登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をDに対抗することができる。」
この後半部分では、甲土地の所有者であるDの土地をBが占有し新たに取得時効の要件を満たしているので、Bの時効が完成し甲土地はBのものになります。
令和3年(2021年)12月問6
不動産に関する物権変動の対抗要件に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
3.第三者のなした登記後に時効が完成して不動産の所有権を取得した者は、当該第三者に対して、登記を備えなくても、時効取得をもって対抗することができる。
→正しい
時効が完成する前に第三者が登場しているので、時効完成前の第三者の問題とわかります。時効完成前の第三者の問題の場合、時効が完成した者は登記を備えなくても第三者に対し対抗できる(所有権を主張することができる)ので正しいです。
令和元年(2019年)問2
AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1.AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。
→正しい
Aが詐欺を理由に取消した後、第三者であるCが登場しているので、取消し後の第三者の問題とわかります。取消し後の第三者の問題の場合、二重譲渡と同じように考えて、登記を備えた者が所有権を主張することができます。この問題ではCが登記を備えたので、AはCに対抗する(所有権を主張する)ことができません。したがって甲土地の返還を請求することができません。
2.AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
→正しい
Aが詐欺を理由に取消す前に、Aから見て第三者であるCが登場しているので、取消し前の第三者の問題とわかります。取消し前の第三者の問題で、取り消しの理由が詐欺の場合、善意無過失の第三者には対抗することができませんが、今回Cは悪意なので、AはCに対抗する(所有権を主張する)ことができます。登記は関係ないので、Cが登記を備えていても対抗することができます。
⑤まとめ
今回は物権変動の中の第三者との関係を解説しました。それぞれの場合において、理由と考え方がありますので丸暗記せずにしっかり本質から理解しましょう。問題を解く時は時系列を意識しながら読んでいきましょう。
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