
宅建の通信講座を比較していると、「合格率○%」「全国平均の○倍」といった数字を目にすることがあります。当然、合格率70%の通信講座と50%の通信講座が並んでいれば、70%のほうが合格しやすそうに見えます。通信講座を選ぶ基準として、合格率を重視している人もいるでしょう。
しかし、私は通信講座を選ぶときに、合格率を比較してもほとんど意味がないと考えています。これは、通信講座が公表している合格率が間違っているという話ではありません。資格講座の合格率は、講座によって対象者や算出条件が違います。また、公表されている合格率は、その通信講座を選んだ場合のあなた自身の合格確率を表しているわけでもありません。
この記事では、宅建の通信講座が公表している合格率がどのような数字なのか、なぜ通信講座選びの比較指標として使いにくいのかを解説します。
<目次>
①通信講座の合格率は「誰を母数にするか」で大きく変わる
合格率の計算方法自体は単純です。
合格者数 ÷ 対象者数 × 100
ただし、資格講座の合格率を見る場合に重要なのは、計算式ではありません。誰を対象者、つまり母数にしているのかです。
たとえば、ある通信講座を1,000人が受講したとしても、その全員が本試験を受験するとは限りません。さらに、試験後のアンケートに回答して合否を確認できる人は、その一部になります。仮に合格者が200人だったとして、受講者1,000人全員を母数にすれば合格率は20%です。一方、本試験後のアンケートによって300人の合否を確認でき、そのうち200人が合格者だった場合、アンケート回答者を母数とした合格率は約66.7%になります。

合格者数が同じ200人でも、誰を母数にするかによって20%と約66.7%まで数字が変わります。
そのため、「合格率70%」という数字を見るときに重要なのは、70%という数字そのものではありません。「誰を母数として算出した70%なのか」まで確認する必要があります。
アンケート回答者を母数にする場合
宅建の通信講座を調べると、本試験後に実施したアンケートなどによって合否を確認できた受講生を対象として、合格率を算出しているケースがあります。この場合、通信講座を利用した受講生全員でも、本試験を受験した受講生全員でもありません。アンケートに回答して合否を確認できた受講生が母数になります。
ここで重要なのが、アンケートに回答する受講生の心理です。宅建に合格した人にとって、「合格しました」と報告するアンケートは比較的回答しやすいでしょう。資格試験に合格した直後ですから、講座への感謝を伝えたい人や、自分の合格を報告したい人もいます。
一方、不合格だった人にとって「不合格でした」と回答するアンケートは、心理的にかなり回答しづらくなります。何か月も勉強して不合格だった直後に、わざわざ講座から届いたアンケートを開いて自分の不合格を報告するのは、合格を報告する場合とは心理的な負担が違います。また、途中で勉強をやめた人や、講座をほとんど利用しなくなった人も、試験後にわざわざアンケートに回答する心理的なハードルは高くなります。

これは単なる想像だけで書いているわけではありません。私はこれまで、通信講座で学習していたものの思うように進められず、その後私の個別指導を受講して、宅建試験に合格した生徒を数多く指導してきました。そうした生徒に以前利用していた通信講座について聞くと、不合格だった年の試験後に講座から合否を確認するメールが届いていても、私が確認した範囲では、全員が結果を報告していませんでした。
もちろん、私が指導した生徒だけを見て、「通信講座で不合格だった人は全員回答しない」と一般化することはできません。ただ、こうした実例があることからも、合格者と不合格者では合否確認への回答のしやすさに差が生じると考えられます。合格者と不合格者で回答のしやすさが違えば、アンケート回答者など、講座側が合否を確認できた受講生だけを母数にした場合、受講生全体と比べて合格者・不合格者・途中離脱者の人数構成に偏りが出ます。たとえば、「アンケート回答者の70%が合格していた」という数字が正確だったとしても、それを「この通信講座を受講した人の70%が合格した」と読み替えることはできません。
アンケート回答者を対象として計算された70%なら、あくまで「アンケートに回答して合否を確認できた人のうち70%が合格していた」という数字です。数字が間違っているわけではありません。母数が違えば、数字が表している意味も変わります。
さらに受講条件や成績条件を設ける場合
宅建の通信講座の合格率は、アンケート回答者であれば全員が対象になるとは限りません。通信講座の中には、合否を確認できたことに加えて、一定の受講条件を満たしていることを合格率の対象者となる条件にしているケースもあります。
たとえば、
・すべての講義を受講している
・確認テストを受験している
・学力テストを受験している
・一定の受講条件や成績基準を満たしている
などです。
このような条件が設定されている場合、講座に申し込んだ人全員はもちろん、本試験を受験した受講生全員が母数になるわけでもありません。その条件を満たした受講生だけが合格率の対象になります。講義を最後まで受講し、確認テストや学力テストなどにも取り組める人は、少なくとも講座を継続して利用し、一定量の勉強をしてきた受講生です。さらに、講座内で一定以上の成績まで条件に含まれているのであれば、その時点ですでに本試験でも合格可能性の高い受講生が対象に多く含まれることになります。

そのため、こうした条件を満たした受講生の合格率が高かったとしても、その数字だけを見て「この通信講座を選んだから合格しやすくなった」と判断することはできません。
なお、このように一定の条件を満たした受講生を対象として合格実績を公表する方法は、宅建だけの話ではありません。行政書士など他の国家資格の講座でも、カリキュラムの受講状況や講座内の成績などを条件としているケースがあります。
対象者に条件を設けること自体がおかしいわけではない
ここまで読むと、「それなら通信講座は、合格率が高くなるように対象者を絞っているだけでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、私は対象者に条件を設けて合格率を算出すること自体がおかしいとは考えていません。
たとえば、講座に申し込んだものの、数回しか講義を見ず、その後まったく勉強しなかった人がいたとします。その人まで、講義を最後まで受講してカリキュラムに取り組んだ人とまったく同じ条件で扱い、「この講座の合格率」として計算することが適切なのかという問題もあります。本試験を受験しなかった人をどう扱うのか。途中で講座を利用しなくなった人をどう扱うのか。合否を確認できなかった人をどう扱うのか。資格講座が合格率を公表する以上、どこかで対象者の基準を決める必要があります。
対象者に条件を設けること自体が問題なのではありません。通信講座を選ぶ側が、その合格率がどのような条件で算出された数字なのかを確認することが重要です。
➁通信講座同士の合格率を比較してもほとんど意味がない
こうした理由から、私が今後通信講座を選ぶとしても、各社の合格率を比較して決めることはありません。
たとえば、3つの通信講座が次の合格率を公表していたとします。
・A社:合格率50%
・B社:合格率60%
・C社:合格率70%
数字だけを見れば、C社が最も良さそうに見えます。
しかし、A社は本試験受験者、B社は試験後のアンケートで合否を確認できた受講生、C社はすべての講義を受講し、さらに所定のテストや成績条件を満たした受講生を母数としているかもしれません。この場合、50%、60%、70%という数字だけを横に並べても、どの通信講座が最も合格しやすいのかは判断できません。そもそも違う条件の受講生を母数として計算された数字だからです。
これは、A社の算出方法が正しくてC社の算出方法が間違っているという話ではありません。それぞれの合格率には、それぞれの算出条件があります。だから私は、A社50%、B社60%、C社70%という数字だけを見て、「C社が一番合格しやすい通信講座だ」と判断することにほとんど意味を感じません。
さらに、仮に各社が同じような条件で合格率を算出していたとしても、受講生側の条件まで同じになるわけではありません。受講開始時点の知識量、確保できる勉強時間、これまでの資格試験の受験経験などは一人ひとり違います。公表された合格率だけから、その通信講座を選んだことによってどの程度合格しやすくなったのかまで判断することはできません。
つまり、公表された合格率は、その通信講座を利用した一定の受講生についての実績を示す数字ではあっても、「自分がこの通信講座を選んだ場合の合格確率」ではありません。通信講座同士を比較して選ぶための指標としては、合格率はかなり使いにくい数字です。
「全国平均の○倍」もそのまま比較できない
宅建試験全体の合格率は例年15〜18%程度です。そのため、通信講座の合格率が60%、70%などであれば、「全国平均の○倍」という数字になります。これについても、その計算自体がおかしいという話ではありません。ただし、「全国平均が18%で、この通信講座が72%だから、この講座を受講すれば4倍合格しやすくなる」と考えることはできません。
宅建試験全体の合格率には、本試験を受験したさまざまな人が含まれています。何百時間も勉強して受験する人もいれば、十分な勉強時間を確保できないまま受験する人もいます。不動産会社などに勤務していて、会社から受験するよう言われたため、ほとんど勉強せずに受験する人もいます。一方、通信講座側の合格率が「アンケートで合否を確認できた受講生」や「すべての講義を受講し、所定のテストや成績条件を満たした受講生」を対象としているのであれば、全国の本試験受験者全体とは母数が違います。条件の違う二つの集団から算出された合格率を比べて、その倍率をそのまま通信講座の効果だと考えることはできません。
「全国平均の○倍」という数字を見る場合も、倍率そのものより、それぞれの合格率が誰を母数として計算されているのかを見る必要があります。
③公表された合格率はどこまで信用できるか
ここまでは、公表されている合格率そのものは正しいという前提で説明してきました。しかし、受講生の立場から考えると、実際の受講者数、合格者数、アンケートの回答状況など、合格率の元になったデータをすべて確認できるわけではありません。これは、大手の通信講座でも小規模な講座でも同じです。
大手予備校は数字そのものより算出条件を見る
大手予備校は多数の従業員が関わる組織なので、根拠のない合格率を公表することには信用上のリスクが大きくなります。社内で複数の人が数字に関わる以上、明らかに事実と異なる数字を公表し続けることも簡単ではありません。
そのため、大手予備校の合格率を見る場合、私は数字そのものを疑うことより、「その数字が誰を母数として、どのような条件で算出されたのか」を見るほうが重要だと考えています。
小規模・個人運営は合格率の数字そのものにも注意する
一方、小規模な講座、特に個人で運営しているサービスでは、受講者数や合格者数の把握から合格率の算出、公表までを一人で行っている場合もあります。個人で受講者数の把握から合格率の算出・公表まで完結している場合、実際の数字を知っているのが本人だけということもあります。そのため、大手予備校と比べれば、事実と異なる数字を公表することは構造上容易です。
もちろん、これは個人運営の講座が公表している合格率が間違っているという意味ではありません。ただ、内部で数字を確認する人が何人もいる大手予備校と、受講者数の把握から数字の公表まで一人で完結できる個人運営では、事実と異なる数字を公表することの心理的・構造的なハードルには明確な差があります。そのため、小規模・個人運営のサービスが非常に高い合格率を公表している場合は、対象人数、誰を母数としているのか、合否をどのように確認したのかなど、算出根拠まで確認したほうがいいでしょう。
いずれにしても、受講生側から合格率の元データまで完全に確認することは困難です。私はこうした理由から、通信講座を比較するときに合格率をほとんど参考にしていません。
合格率を公表していない通信講座に私はむしろ好感を持つ
通信講座の中には、合格率を公表していないところもあります。「合格率を出していないということは、実績に自信がないのでは?」と思う人もいるかもしれません。私は逆で、合格率をあえて公表していない通信講座には、個人的にはむしろ好感を持ちます。
ここまで説明してきた通り、資格講座の合格率は、誰を母数にするかによって大きく変わります。アンケートで合否を確認できた人だけを対象にすることもできますし、講義の受講状況やテストの成績など、さらに条件を設けることもできます。しかも、受講生側から実際の受講者数や合格者数、アンケートの回答状況など、合格率の元になったデータを完全に確認することはできません。つまり、合格率は算出条件によって高い数字を出すこともできますし、公表された数字そのものを外部から完全に検証することも難しい指標です。
そのような性質の数字だからこそ、私は「高い合格率を出してアピールしよう」とするのではなく、あえて合格率を公表しないという判断に誠実さを感じます。「算出条件を工夫すれば高い数字を出すこともできる。でも、その数字を通信講座選びの指標として受験生に強くアピールすることはしない」。そういう考え方で合格率を公表していないのであれば、私はその姿勢に好感を持ちます。
もちろん、実際にどのような理由で合格率を公表していないのかは講座ごとに違うため、「合格率を公表していない=誠実な講座」と断定することはできません。反対に、算出条件を明示して合格率を公表している講座が不誠実という話でもありません。ただ、少なくとも私は、合格率を公表していないことをマイナスには評価しません。むしろ、その数字を無理に競わない姿勢には好感を持ちます。
④私自身も合格率には対象条件を設けている
私は、宅建試験の受験生を対象にオンラインで1対1の個別指導をしています。その中で受講生の合格率も公表していますが、すべての受講生を対象として算出しているわけではありません。私の場合、3か月未満の受講者は合格率の対象に含めていません。また、フルサポートコースの合格率については、所定のカリキュラムを修了した受講生を対象としています。
理由は単純です。試験直前に数回だけ授業を受けた人と、数か月にわたって継続的に指導を受けた人を、私の指導実績としてまったく同じ条件で扱うことが適切だとは考えていないからです。フルサポートコースについても、カリキュラムを途中でやめた人と最後まで取り組んだ人では、実際に受けた指導内容が違います。だから私は、通信講座が一定の条件を設けて合格率を算出していること自体を否定するつもりはありません。私自身も対象条件を設けているからです。
そして、自分でも合格率を公表しているからこそ、合格率は「誰を母数にするか」によって意味が大きく変わる数字だと考えています。だからこそ、通信講座A社の70%とB社の60%を数字だけ取り出して、「A社のほうが合格しやすい」と比較することに、私はほとんど意味を感じません。
⑤通信講座は何を基準に選べばいいのか
ここまで説明してきた通り、私は通信講座を選ぶときに、合格率を比較してもほとんど意味がないと考えています。では、何を基準に通信講座を選べばいいのでしょうか。
私が最も重視するのは、実際に講義を担当する講師です。私自身、もし今から別の法律系資格を受験するとしたら、間違いなく通信講座を利用します。ただし、合格率を比較して講座を決めることはありません。
では、どのような基準で講師を選べばいいのでしょうか。私が合格率や料金より講師を重視する理由も含め、以下の記事で詳しく解説しています。
宅建の通信講座の選び方|講師との相性を最優先すべき理由
なお、講師は知名度や人気だけで判断できるものでもありません。この点については、以下の記事で詳しく解説しています。
宅建の通信講座で「指導力」がある講師を見抜くための方法
