
現在、不動産取引の専門資格として知られている「宅地建物取引士(宅建士)」ですが、最初からこの名称だったわけではありません。宅建資格は1957年(昭和32年)に「宅地建物取引員」として誕生し、1965年(昭和40年)に「宅地建物取引主任者」、2015年(平成27年)に現在の「宅地建物取引士」へと名称が変更されました。
しかし、宅建資格の歴史は、
この記事では、1952年の宅地建物取引業法制定から、宅建資格の誕生、重要事項説明制度の導入、専任設置義務の強化、宅建士への名称変更まで、国土交通省や不動産適正取引推進機構(RETIO)の資料をもとに詳しく解説します。なお、法改正が行われた年と実際に制度が施行された年は異なる場合があるため、両者を区別して紹介します。
<目次>
①宅建資格の歴史・主な出来事


宅建資格の歴史における主な出来事は、次のとおりです。
1952年(昭和27年):宅地建物取引業法を制定。宅建資格制度はまだ存在しなかった
1957年(昭和32年):宅地建物取引員制度を創設。事務所ごとに1人以上の専任者を置く制度を導入
1958年(昭和33年):第1回宅地建物取引員試験を実施
1959年(昭和34年):専任の取引主任者の設置義務が本格的に適用
1964年(昭和39年):宅建業法改正。取引主任者への名称変更と宅建業者の免許制度を決定
1965年(昭和40年):宅地建物取引主任者制度へ移行
1967年(昭和42年):宅建業者に重要事項説明と契約成立後の書面交付を義務付け
1971年(昭和46年):重要事項説明を取引主任者に行わせる義務を導入。資格登録制度も創設
1980年(昭和55年):専任設置基準を従業者10人に1人以上とする法改正。主任者証や法定講習制度も整備
1988年(昭和63年):専任設置基準を従業者5人に1人以上とする法改正。登録時の実務経験要件も追加
1995年(平成7年):欠格要件や監督処分に関する規定を強化
2014年(平成26年):宅建業法改正。宅地建物取引士への名称変更を決定
2015年(平成27年):宅地建物取引士制度が施行。専門家としての責務を明文化
2022年(令和4年):重要事項説明書などへの押印義務を廃止し、電子書面による提供を可能に
以下、宅建資格がどのように誕生し、現在の制度へ発展してきたのかを詳しく見ていきます。
➁1952年|宅建業法の制定
最初は宅建資格が存在しなかった
宅地建物取引業法は、1952年(昭和27年)6月10日に法律第176号として公布されました。戦後の住宅需要の拡大や不動産取引の増加を背景に、不動産業者に対する規制の必要性が高まっていたことが制定の背景にあります。当初の宅建業法では、現在のような免許制度ではなく、宅建業者の登録制度が採用されていました。また、標識の掲示、報酬額の制限、重要な事項について故意に事実を告げない行為や不実のことを告げる行為の禁止など、不動産取引を適正に行うための規制が設けられていました。しかし、1952年の宅建業法制定当初には、
不動産業者の規制が必要になった理由
不動産は一般の商品と比較して取引金額が大きく、土地や建物の権利関係、法令上の制限、契約条件など、専門的な知識が必要になります。こうした知識が十分でない消費者が不利益を受けるおそれもあるため、不動産業者に一定の規制を設ける必要がありました。もっとも、当初の宅建業法には、現在のような重要事項説明制度はありませんでした。取引に関する重要な事実を隠す行為などは禁止されていましたが、契約前に一定の事項を積極的に説明し、書面を交付する制度が設けられるのは、さらに後のことです。
③1957年|宅地建物取引員の誕生

宅建資格制度が初めて創設された
宅建資格制度が創設されたのは、1957年(昭和32年)の宅建業法改正です。同年5月27日に公布された法律第131号によって、宅地建物取引業に関する知識について試験を実施し、合格者を「宅地建物取引員」とする制度が設けられました。この改正によって資格試験制度が創設され、翌1958年11月16日に第1回宅地建物取引員試験が実施されています。なお、宅建資格が創設されたのは1957年ですが、
当初は事務所に1人以上でよかった
1957年の改正では、宅建業者の事務所ごとに、試験に合格した人を専任の取引主任者として1人以上置く制度が設けられました。この専任設置義務は1959年8月1日から本格的に適用されることになっており、必要な資格者を確保するため、1958年の第1回試験に続いて1959年5月にも第2回試験が実施されました。現在の宅建業法では、事務所の従業者5人に1人以上の割合で専任の宅建士を置かなければなりませんが、当初は従業者数に応じた人数ではなく、原則として事務所ごとに1人以上という基準でした。例えば、従業者が20人いる事務所でも、当時の基本的な設置基準では専任者1人で足りる仕組みだったのです。現在であれば、従業者20人に対して4人以上の専任の宅建士が必要になります。
取引員と取引主任者は違う言葉だった
当時の制度を理解するうえで注意したいのが、「宅地建物取引員」と「取引主任者」という言葉の違いです。宅地建物取引員は試験合格者の資格名称であり、取引主任者は事務所に置かれる専任者としての役割を表していました。そのため、1957年の段階ですでに「取引主任者」という言葉は存在していましたが、資格名称そのものは「宅地建物取引員」でした。また、当時の資格者には、現在の宅建士のように重要事項説明を行う独占業務は設けられていませんでした。宅建資格は、
④1965年|宅地建物取引主任者へ変更
1964年の法改正で名称変更が決定
1964年(昭和39年)7月10日、宅建業法の大規模な改正が行われました。この改正によって、宅地建物取引員という名称を宅地建物取引主任者に変更することが決まりました。改正法の施行日は1965年(昭和40年)4月1日です。そのため、法律が改正されたのは1964年ですが、実際に宅地建物取引主任者制度へ移行したのは1965年になります。宅地建物取引員という名称は、不動産業者そのものと誤認されるおそれがあることなどが問題とされていました。そこで、資格者としての立場を明確にするため、宅地建物取引主任者という名称が採用されました。
宅建業者も登録制から免許制へ
1964年の改正では、資格名称だけでなく、宅建業者の規制も大きく強化されました。それまでの登録制度に代わり、宅地建物取引業を営むには建設大臣または都道府県知事の免許を受ける制度が導入されたのです。現在でも、宅建業者は国土交通大臣または都道府県知事の免許を受けなければ宅地建物取引業を営むことができませんが、その原型は1965年に始まっています。なお、宅建業者の免許と宅建士個人の資格は別のものです。宅建業者の免許は不動産業を営む事業者に対するものであり、宅建士の資格は個人に対するものになります。
⑤1967年|重要事項説明制度が誕生
最初は宅建業者の義務だった
宅建資格の歴史で見落とされやすいのが、1967年(昭和42年)の宅建業法改正です。同年8月1日に公布された法律第115号によって、重要事項説明制度が初めて設けられました。改正法の施行日は同年10月1日です。この改正では、宅建業者に対して、契約が成立するまでの間に一定の重要事項を説明することが義務付けられました。また、登記された権利や法令上の制限など、特に重要な事項については書面を交付して説明する制度も導入されました。現在の重要事項説明制度の原型は、この1967年の改正によって誕生したのです。ただし、1967
契約後の書面交付制度も導入
1967年の改正では、重要事項説明だけでなく、契約成立後の書面交付制度も設けられました。現在の宅建業法第37条に相当する制度で、契約が成立した際に、契約内容に関する一定の事項を記載した書面を交付することが義務付けられました。また、誇大広告の禁止や取引態様の明示なども規定され、不動産取引における消費者保護が強化されました。つまり、1967年には重要事項説明と契約成立後の書面交付という、不動産取引の基本的な仕組みが導入されました。しかし、これらの業務に資格者を関与させる仕組みは、1971年の改正を待つことになります。
⑥1971年|重要事項説明が主任者の職務に
主任者による重要事項説明を義務付け
1971年(昭和46年)6月16日、宅建業法の大規模な改正が行われました。この改正法は同年12月15日に施行されています。1971年の改正では、1967年に導入された重要事項説明制度が強化され、宅建業者は宅地建物取引主任者に重要事項説明を行わせなければならないことになりました。また、重要事項説明書への記名押印や、契約成立後に交付する書面への記名押印も、取引主任者の職務として定められました。ここで初めて、重要事項
1967年と1971年の違い
この2つの法改正は混同されやすいですが、内容は明確に異なります。1967年の改正では、宅建業者に重要事項説明が義務付けられました。一方、1971年の改正では、その重要事項説明を取引主任者に行わせることが義務付けられました。つまり、1967年は重要事項説明制度そのものが誕生した年
資格登録制度も導入された
1971年の改正では、都道府県知事による取引主任者の登録制度も導入されました。また、一定の犯罪歴などを登録の欠格要件とする仕組みも設けられ、資格者としての適格性を確認する制度が強化されました。これにより、試験に合格しただけでなく、資格登録などの要件を満たした人が重要事項説明などの職務を担う制度へと発展していきました。
⑦1980年の改正|専任設置基準を強化
従業者10人に1人以上へ
1957年の制度創設当初、事務所に必要な専任の取引主任者は原則として1人以上でした。しかし、不動産業者の規模が大きくなるにつれて、従業者が多数いる事務所でも資格者が1人しかいないという状況が生じることになります。そこで、1980年(昭和55年)の宅建業法改正によって、事務所の従業者10人に1人以上の割合で専任の取引主任者を置く制度が設けられました。これにより、事務所の規模に応じて必要な資格者の人数を増やすという考え方が採用されました。なお、1980年の改正法は同年5月21日に公布されましたが、主要な規定の施行日は同年12月1日と翌1981年4月1日に分かれていました。したがって、1980年に改正されたすべての制度が同時に施行されたわけではありません。
主任者証と法定講習制度も導入
1980年の改正では、取引主任者証の交付制度や法定講習制度も整備されました。また、重要事項説明の際に取引主任者証を提示する義務も設けられ、説明を受ける相手方が資格者本人であることを確認できる仕組みが強化されました。当時は3年ごとの法定講習制度が設けられ、資格取得後も必要な知識を維持することが求められるようになりました。この背景には、取引主任者のなりすましや名義貸しなどの問題もありました。資格者が実際に職務を行っていることを確認し、資格制度の信頼性を高める必要があったのです。
⑧1988年の改正|専任者を5人に1人へ
現在の専任設置基準の原型
1988年(昭和63年)5月6日、宅建業法の改正法が公布されました。この改正では、専任の取引主任者の設置基準を、従業者10人に1人以上から5人に1人以上へ引き上げることが決まりました。例えば、従業者が20人いる事務所であれば、従来の基準では専任者2人以上でしたが、新しい基準では4人以上が必要になる計算です。また、事務所以外の一定の案内所などについても、専任の取引主任者を1人以上置く制度が設けられました。従業者5人に1人以上という基準は、現在の宅建士制度にも引き継がれています。 なお、改正法は1988年5月6日に公布され、専任設置基準の引上げを含む主要な規定は同年11月21日に施行されました。ただし、既存の宅建業者に対する経過措置なども設けられています。
登録に実務経験の要件を追加
1988年の改正では、取引主任者の資格登録についても要件が強化されました。一定期間以上の実務経験などを求める仕組みが導入され、単に試験に合格しただけでは資格登録できない制度になりました。現在も、宅建士の資格登録には原則として2年以上の実務経験が必要ですが、登録実務講習の修了などによって要件を満たすこともできます。宅建資格は、試験によって知識を確認するだけでなく、実務能力や資格者としての適格性も重視する制度へと発展してきたのです。
⑨1995年|欠格要件と監督処分を強化
1995年(平成7年)の宅建業法改正では、取引主任者の欠格要件や監督処分に関する制度が強化されました。具体的には、暴力団対策法の一定の規定に違反した場合を欠格要件に追加するなど、資格者としての適格性を厳格に確認する仕組みが設けられました。また、取引主任者に対する指示処分の制度も追加されました。宅建資格は、不動産取引に必要な知識を持っていることを証明するだけでなく、法律を守り、適正に業務を行うことが求められる資格です。そのため、資格者の不適切な行為に対して行政が監督する仕組みも、時代とともに強化されてきました。
⑩2015年|宅地建物取引士へ名称変更
2014年の法改正で「宅建士」が誕生
宅建資格の歴史における大きな転換点が、2014年(平成26年)の宅建業法改正です。同年6月25日に公布された法律第81号によって、「宅地建物取引主任者」の名称を「宅地建物取引士」に変更することが決まりました。改正法の施行日は2015年(平成27年)4月1日です。したがって、宅建士への名称変更は2
宅建資格の名称は、1957年から1965年までが「宅地建物取引員」、1965年から2015年までが「宅地建物取引主任者」、2015年以降が「宅地建物取引士」です。なお、宅建試験の名称については、1958〜1964年度が宅地建物取引員試験、1965〜2014年度が宅地建物取引主任者資格試験、2015年度以降が宅地建物取引士資格試験となっています。
名前が変わっただけではない
宅地建物取引主任者から宅地建物取引士への変更は、単なる名称変更ではありません。2014年の宅建業法改正では、宅建士の専門家としての責任を明確にするため、新たな規定が設けられました。具体的には、宅建士の業務処理の原則、信用失墜行為の禁止、知識および能力の維持向上などに関する規定が追加されています。また、宅建業者に対しても、従業者に必要な教育を行うよう努める義務が設けられました。これにより、宅建士は重要事項説明などの職務を担うだけでなく、専門家として公正かつ誠実に業務を行う責任が法律上明確になったのです。
宅建士の責務が明文化された
現在の宅建業法では、宅建士に対して次のような責務が定められています。
宅建業法第15条:業務処理の原則
宅建士は、宅地または建物の取引に係る事務を行うに当たり、購入者などの利益の保護と宅地・建物の円滑な流通に資するよう、公正かつ誠実に事務を行い、宅建業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければなりません。
宅建業法第15条の2:信用失墜行為の禁止
宅建士は、宅建士の信用または品位を害するような行為をしてはなりません。
宅建業法第15条の3:知識および能力の維持向上
宅建士は、宅地または建物の取引に係る事務に必要な知識および能力の維持向上に努めなければなりません。
これらの規定によって、宅建士には試験に合格するための知識だけでなく、資格取得後も専門家として適切に業務を行うことが求められています。
⑪2022年|押印廃止と書面の電子化
重要事項説明書などの押印義務が廃止
2022年(令和4年)5月18日には、宅建士の業務に関係する重要な制度変更が行われました。それまで、重要事項説明書や契約締結時に交付する書面には、宅建士の記名押印が必要でした。しかし、2021年5月19日に公布されたデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律によって押印義務の廃止が決まり、2022年5月18日に施行されました。これによって、重要事項説明書や37条書面には、宅建士の記名は必要ですが、
重要事項説明書の電子化も可能に
同じ2022年5月18日から、重要事項説明書や契約締結時に交付する書面について、一定の要件のもとで電子的方法による提供が可能になりました。従来は紙の書面を交付することが原則でしたが、現在では相手方の承諾など法令上の要件を満たせば、電子メールやウェブサイトからのダウンロードなどによって提供することもできます。ただし、書面の電子化が認められたからといって、重要事項説明そのものが不要になったわけではありません。宅建士
⑫宅建資格の名称と役割はどう変わった?
宅地建物取引員の時代
1957年に創設された宅地建物取引員は、宅建業者の事務所に専門知識を持つ人材を配置することが制度の中心でした。この時点では、現在のように重要事項説明を資格者の職務として義務付ける制度は存在していませんでした。
宅地建物取引主任者の時代
1965年からは宅地建物取引主任者という名称になり、1967年には宅建業者に重要事項説明が義務付けられ、1971年には取引主任者が説明を行う制度が確立されました。さらに、1980年と1988年の法改正によって専任設置基準が強化され、資格登録、主任者証、法定講習などの制度も充実していきました。現在の宅建士制度の基本的な仕組みは、取引主任者の時代に形成されたものです。
宅地建物取引士の時代
2015年からは宅地建物取引士という名称になり、専門家としての責任が法律上明文化されました。重要事項説明や書面への記名など、従来からの職務を引き継ぎながら、公正かつ誠実な業務処理、信用失墜行為の禁止、知識および能力の維持向上などが求められるようになりました。宅建資格は、単に名前を変えてきたのではなく、事務所に配置され
⑬まとめ
宅建資格は1957年の宅地建物取引員制度の創設から始まり、1965年に宅地建物取引主任者、2015年に宅地建物取引士へと名称が変更されてきました。また、1967年の重要事項説明制度の導入、1971年の取引主任者による重要事項説明義務の導入、1980年と1988年の専任設置基準の強化、2015年の宅建士の責務の明文化など、資格者に求められる役割も大きく変化しています。
現在の宅建士は、不動産取引に関する専門知識を持ち、重要事項説明などの職務を担う国家資格者です。しかし、現在の制度が最初から存在していたわけではありません。宅建資格
なお、宅建試験そのものの歴史については、以下の記事で詳しく紹介しています。1958年の第1回試験、昔の合格率、問題数、受験資格、試験日などの変化に興味がある方は、あわせてご覧ください。
宅建試験の歴史|第1回試験から現在までの試験制度の変遷
参考資料
本記事は、国土交通省、不動産適正取引推進機構(RETIO)、当時の建設省通達などの資料をもとに作成しています。
国土交通省「宅地建物取引士制度の変遷」 国土交通省「不動産関連政策の現状」 RETIO「不動産政策史検索DB|宅建業法改正年次別」 衆議院「昭和42年法律第115号」 建設省「昭和42年改正法の施行について」
衆議院「昭和46年法律第110号」 建設省「昭和55年改正法の施行について」 国土交通省「取引主任者制度の概要」 国土交通省「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります」国立国会図書館「日本法令索引|宅地建物取引業法」
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