➀35条書面(重要事項説明)とは

35条書面とは、宅建業者が契約を締結する前に、買主または借主に対して、①物件の内容②契約条件、において重要なものを説明するために交付する書面です。買主または借主の承諾があれば電磁的記録での提供ができます。そして宅地建物取引士は相手方に宅地建物取引士証の提示し、その内容をする必要があります。説明は専任の宅建士である必要はありません。相手が宅建業者の場合は35条書面の交付は必要ですが説明は不要です。説明場所には制限はありません。私も全国の様々なファミリーレストランで重要事項説明をした経験があります。交換の場合も両当事者に説明が必要ですが売買と全く同じように考えて問題ないので以降は省略します。

➁35条書面の記載事項の覚え方

買主または借主の立場になってみて考えるのが基本です。買う前、借りる前に知っておかなければならない情報であれば説明が必要ですし、買主、借主にとって関係ない話であれば説明不要です。宅地の貸借においては借主は建物所有を目的として土地を借りるという目的で考えると覚えやすくなります。建物の売買においては一般的に宅地も一緒に買うか借地権とセットで売買することになるので買った建物を壊して新たに建て直す時も想定すると覚えやすくなります。説明事項の内容を具体的にイメージすることができれば丸暗記や語呂合わせは不要です。
そこで、35条書面のうち出題頻度が高く重要なところを、なぜ記載が必要なのか不要なのか、私自身の売買仲介の経験を踏まえ、本質から理解できるように説明していきます。

飲用水、電気、ガスの供給ならびに排水施設の整備状況

売買、建物の貸借、宅地の貸借、全てで説明が必要です。
水道は公共水道なのか私営水道なのか、電気は通っているのか、ガスはプロパンガスなのか都市ガスなのか、売買でも貸借でも知っておきたい情報なので説明が必要です。未完成の場合は設備の見通し(いつ頃完成予定するのか)について説明が必要です。

契約の解除について

売買、建物の貸借、宅地の貸借、全てで説明が必要です。
売買の場合、ローンが通らなかったら契約を解除するというローン特約などです。
貸借の場合、当事者間で決めた家賃や地代の支払いが何ヶ月遅れたら契約を解除するなどです。

損害賠償額の予定または違約金に関する事項

売買、建物の貸借、宅地の貸借、全てで説明が必要です。
お金に関することは売買代金、借賃以外全て説明必要と覚えて問題ありません。損害賠償額の予定または違約金とは、例えば「引き渡しが遅れた場合1日につき売主(貸主)は買主(借主)に1万円支払う」など、両当事者があらかじめ話し合って決めることができます。損害賠償は予定をしていなくても請求することができますが、買主(借主)がその証明をしなくてはならず非常に大変なため、あらかじめ金額を決めておけば証明する必要なく請求することができます。

支払金・預かり金の保全措置の概要

売買、建物の貸借、宅地の貸借、全てで説明が必要です。
保全措置とは、宅建業者が売主で買主が宅建業者でないとき、物件を引き渡す前に買主が手付金、内金、中間金などで大きな金額支払う場合に、宅建業者が倒産した等の不測の事態があっても買主に返還できるようにしておくことです。銀行との保証委託契約、保険事業者との保証保険契約、指定保管機関との手付金等寄託契約の3種類があります。
保全措置を講じる必要がある場合、買主(借主)は不測の事態があった時どうやったら返還してもらえるのかどこで手続きをすれば良いのか知っておく必要があるため、説明する必要があります。説明とは別に、契約したことを証する書面を買主(借主)に交付する必要もあります。保全措置を講じる必要がない場合は「保全措置は講じません」のみ説明すればOKです。

売買代金及び交換差金、借賃以外に授受される金銭の額、目的

売買、建物の貸借、宅地の貸借、全てで説明が必要です。
損害賠償額の予定と同様、お金に関することは売買代金、借賃以外全て説明必要と覚えて問題ありません。売買の場合、手付金などです。貸借の場合、敷金、礼金、権利金、保証金などです。これらの金銭はいくらでどのようなものか、例えば買主(借主)に返還されるものなのかされないものなのかなど、あらかじめ説明しておかないとトラブルになるため説明が必要です。

都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で政令で定めるものに関する事項

売買の場合全て、建物の賃借の場合建物賃借人に適用される制限のみ、土地の貸借の場合土地所有者に限り適用されるものを除いて説明が必要です。
これらは一つ一つ覚えなくても問題を解く時内容を見て考えればわかります。例えば建蔽率、容積率、斜線制限等であれば建物を建てる時の話なので売買と土地の貸借の場合は説明必要、建物の貸借の場合は借主は建物を建てることはないので説明不要です。

宅地または建物が土砂災害警戒区域内にあるときはその旨

売買、建物の貸借、宅地の貸借、全てで説明が必要です。
土砂災害警戒区域とは土砂災害が発生しやすい地域のことであり、住む人全員に関係がある話ですので全てで説明必要です。
他にも、造成宅地防災区域とは崖崩れが発生しやすい地域、津波災害警戒区域とは津波が発生したときに大きな被害を受けると予測される地域、ですので土砂災害警戒区域内と同様に考えて全てで説明必要です。

水防法の規定により市町村の長が提供する図面(水害ハザードマップ)における当該宅地または建物の所在地

売買、建物の貸借、宅地の貸借、全てで説明が必要です。
ハザードマップは洪水、雨水出水(内水)、高潮等が発生した時にどのくらいの被害が発生するかを示したマップです。「ハザードマップがあります」だけですと、ほとんどの地域でハザードマップはありますから説明になっていません。ハザードマップを実際に見せて、「今回の物件はここにあり、このくらいの規模の洪水が発生した場合このくらいの被害が起きる可能性があります」と説明する必要があります。建物に住む人全員に関係がある話ですので売買でも貸借でも全てにおいて説明必要です。

石綿の使用の有無の調査結果が記録されている時はその内容

建物の売買、建物の貸借の場合のみ説明必要です。
建物を買う人、借りる人にとって健康面で被害を受ける可能性がある石綿(アスベスト)を使っている物件であれば気になりますよね。そのため調査をしていた場合はどんな結果だろうと隠さずに買主(借主)に説明する必要があります。調査していない場合も「調査していません」と説明する必要があります。
なお、2006年以降は石綿(アスベスト)の使用が全面的に禁止されています。2006年以前に建てられていて、石綿を使用している可能性があっても、壁の中のみに使われているのであれば住んでいても健康被害の恐れはなく、建物を解体する時に注意する必要があるだけですので「石綿を使用している物件に住んでいると危険」と断言することはできません。
石綿の調査の他、耐震診断、建物状況調査は実施は費用がかかるため義務ではなく、実施していた場合結果が悪かったとしても隠さずに内容まできちんと説明する必要があります。「調査しました」「受けました」だけでは足りません。義務ではないため調査していない場合でも宅建業者自ら調査を実施する必要はありません。これら3つは調査していなければ「調査していません」「受けていません」と説明するだけで大丈夫です。建物状況調査については2025年の改正点ですのでしっかり覚えましょう。

建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存状況

建物の売買の時のみ説明が必要です。
建物の建築及び維持保全の状況に関する書類とはどのような書類かというと、建築した時や増築した時の設計図書や建築確認の確認済証等です。これらの書類があると増築や建て壊しの時に「以前こういう状況で建築確認が降りたので今回の増築も問題ないよね」「こういう状況で建築したので建て壊しする時はこのように壊したら問題ないよね」と建築確認等が下りやすくなります。増築や建て壊しの時にあったら良い書類のため、売買の場合は説明が必要で、貸借の場合は借主が増築や建て壊しをすることはないので説明不要です。
書類の内容は建築士さんの仕事の領域で、宅建業者には説明できないため「ある」「なし」のみの説明で問題ありません。

私道の負担に関する事項

売買の場合、宅地の貸借の場合のみ説明必要です。
私道の負担とは、敷地の一部を道路にしなければ建物を建てられないというものです。例えば100㎡の土地を買ったのにそのうち10㎡は建物を建てることはできず道路にしなければならないと買主が買った後に知ったら、建てようと思ってた建物が予定通りに建てることができずにトラブルになりますよね。そのため説明が必要です。建物を建てる時の話なので建物の借主には説明不要です。

台所、浴室、便所その他の当該建物の設備の整備の状況

建物の貸借の場合のみ説明必要です。
建物の設備の整備の状況とは台所であればガスコンロかIHなのか、浴室であれば浴槽があるのかシャワーのみなのかユニットバスなのか、便所であれば洋式なのか和式なのか、それはきちんと使えるかどうか等です。借主としてはこれらは知っておきたい情報なので説明が必要ですね。
しかし建物の売買の場合には説明が不要なのはなぜか。その理由は、もし説明をしていなくて台所、浴室、便所等が壊れていたとしても売主に対して契約不適合責任で責任を追及できるからです。契約不適合責任は売主のみの責任のため、貸借の場合壊れたまま貸したとしても契約不適合責任として追及できないので説明が必要になります。
「建物の買主は気に入らなければ自分で新しいものに交換できるから説明不要」という人もいますがこれは間違いですので、誤った解釈で覚えないように注意してください。買主がお金かければ問題ない、という考えならなにかあってもほとんどがお金で解決できます。

一棟の建物の修繕積立金の規約(案)がある時はその内容及び既に積み立てられている金額

区分建物の売買の場合のみ説明必要です。
区分建物(マンション)の場合、大体13年から16年に1回を目安に大規模修繕をしなければならないためそのためのお金を積み立てておくのが一般的です。積み立てられている金額が少なく、大規模修繕する時に足りないと区分所有者で持分に応じて月々の修繕積立金以外にも追加で支払う必要があるためいくら積み立てられているかは不動産の価値に大きく影響します。そのため説明必要です。購入する予定の部屋以外に滞納があれば滞納している人以外が持分に応じて支払うことになるため、滞納額まで説明が必要です。マンションの借主は修繕積立金を支払う必要はないため説明不要です。

近年の過去問の解説

令和6年(2024年)問26

ア ガス配管設備等に関して、住宅の売買後においても宅地内のガスの配管設備等の所有権が家庭用プロパンガス販売会社にあるものとする場合には、その旨を説明しなければならない。
→正しい
ガス設備の所有権が販売会社にあるのにもかかわらず説明をせずに買主がプロパンガス会社を切り替えて設備を廃棄したらトラブルになるでしょう。そのため説明必要です。

エ 区分所有建物である中古マンションの一室の売買の媒介を行う場合、当該1棟の建物の計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額について説明しなければならない。
→正しい
修繕積立金については不動産の価格に大きく影響するため売買の媒介の場合、説明必要です。

令和4年(2022年)問34

地建物取引業者が建物の売買の媒介の際に行う宅地建物取引業法第35条に規定する重要事項の説明に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。なお、説明の相手方は宅地建物取引業者ではないものとする。

1.当該建物が既存の木造建物であるときは、宅地建物取引業法第34条の2第1項第4号に規定する建物状況調査を過去1年以内に実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要を説明しなければならない。
→正しい
木造住宅の場合1年以内に実施していれば説明が必要です。RC造(鉄筋コンクリート造)、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の場合は2年以内に実施していれば説明必要です。近年の改正点ですのでしっかり抑えておきましょう。

2.当該建物が宅地造成及び特定盛土等規制法の規定により指定された造成宅地防災区域内にあるときは、その旨を説明しなければならない。
→正しい
造成宅地防災区域とは崖崩れなどの災害が発生する恐れがある地域のことですので、建物の売買の場合に限らず建物の貸借、宅地の貸借でも説明必要です。

3.当該建物について、石綿の使用の有無の調査の結果が記録されているときは、その内容を説明しなければならない。
→正しい
石綿については住む人にとって知りたい情報なので建物の売買でも建物の貸借でも説明必要です。

4.当該建物(昭和56年5月31日以前に新築の工事に着手したもの)が指定確認検査機関、建築士、登録住宅性能評価機関又は地方公共団体による耐震診断を受けたものであるときは、その旨を説明しなければならない。
→誤り
耐震診断を受けましたor受けていませんでは足りず、耐震診断の内容まで説明しなければなりません。

令和4年(2022年)問36

1.建物の売買の媒介を行う場合、当該建物が既存の住宅であるときは当該建物の検査済証(宅建業法施行規則第16条の2の3第2号に定めるもの)の保存の状況について説明しなければならず、当該検査済証が存在しない場合はその旨を説明しなければならない。
→正しい
存在しない場合であっても「ない」と説明しなくてはなりません。存在しないから説明不要というわけではありません。

3.建物の貸借の媒介を行う場合、当該建物が、水防法施行規則第11条第1号の規定により市町村(特別区を含む。)の長が提供する図面にその位置が表示されている場合には、当該図面が存在していることを説明すれば足りる。
→誤り
「あります」とだけ言っても説明したことになりませんので足りません。

まとめ

35条書面(重要事項説明)の記載事項について特に重要なところの覚え方を重点的に解説しました。重要事項説明において、なぜ説明が必要なのか、なぜ説明が不要なのかは必ず理由があります。丸暗記や語呂合わせは理解するという過程を飛ばした付け焼き刃です。覚えようとしてもすぐに忘れてしまいますので脳に定着しません。理由までセットで本質を理解しながら勉強していきましょう。
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